「みなさんに誤解されてる?」
遅番の私より遅く帰ってきた亘理さんは、小さなテーブルでご飯を食べながらちょっと怪訝そうに眉を寄せた。
一人分も二人分も変わらないし、と彼の分の夕飯を作っておいて正解だった。彼もまた、私が用意しているような気がしたらしく何も食べずに帰ってきたのだ。
同居して二日目。
自分の家に他人がいることにまだ慣れてはいないが、職場にずっと一緒にいる店長なのでそんなに気を遣ってはいない。
これはおそらく、彼の人柄なのだとは思うが。
「誤解、されてると思います。ただお店をウロウロしてるとか、ちょこちょこ掃除してるとか、事務所に引きこもってるとか、みんなそう思ってるみたいですよ」
「そうですか。今日は午後からずーっと草むしりしてたんですけど」
「この際、草むしりいってきまーす!って元気に声かけていくのはどうですか?」
「それもそうですね。では次からそうします」
むしゃむしゃとポテトサラダを頬張るのを、私は洗濯物を干しながら横目で見やる。
働いているとつねに部屋干しになるので、今日も帰宅してから洗濯機を回して今の時間に干す作業である。
……下着をどうするかという問題は色々考えて苦悩した結果、ネットに入れたまま干すという荒業を編み出した。これでヤツには見えまい。
「そういえば、さっき重大なことを思い出したんです」
「重大なこと?」
今度は野菜炒めを食べながら、重大なこととは到底思えない顔色とテンションで彼がつぶやいた。
「スーツが、ない」
「─────はい?」
「スーツ、前の家に置いてきちゃったんですよ」
「スーツとか着るんですか?」
申し訳ないけれど、彼のスーツ姿がまったく想像できない。
あえて言うならサイズの合ってなさそうなゆるゆるのシルエットのものを、ダラッと着てそう。
私の考えていることが分かったのか、彼は不満げに口をとがらせた。
「本社に行く時くらいはちゃんと着ますよ。もともとはほとんどスーツで仕事してましたし」
「……亘理さんにはデニムかチノパンがお似合いだなあと」
「余計なフォローはしなくていいです」
「すみません」



