課題は山積みだ。
お店だけの問題じゃなく、テナントの問題もある。
老朽化が丸見えのこの建物も、どうにかしたいと亘理さんは言っていた。

駐車場のアスファルト整備とか、敷地の至るところに生えている雑草を抜いてきちんと手入れしたお花なんかを植えていきたいとか、ひび割れた壁を直したいとか、古びて黄ばんできたトイレも一新したいとか。

要望は数しれない。

「やっぱり駐車場とトイレは早めにやるべきだとは思うかなあ。トイレなんて古すぎて赤ちゃんのオムツ替えの台もないじゃない?」

「それなら授乳室もつけたいわね。ブラマみたいにミルクのためのお湯は常備できないけど、声がけしてもらえれば用意できるようにしてもいいし」

「雑草抜くだけなら、内仕事がひと段落すれば俺がやってもいいけどなあ。ていうか、店が暇なんだからみんなで交代でやるってのはどうだ?」

「お花ならうちの庭のやつ少し分ける?」

「でも土がどうもなあ」


休憩室で意見を求めたら、パートのおばちゃんたちや他の社員さんたちが思いがけず積極的に意見をくれた。
一気にワイワイと話し出したので、慌ててメモをとる。

「ご家庭にあるものは持ってこなくても大丈夫です!ちゃんと本社に言って、予算をもらってきて用意するって亘理さんが言ってましたから」

「亘理さんって、何者なの?瑠璃ちゃんこき使われて疲れてない?」

「大丈夫です。こき使われてません」

私にも正直なところ、彼が何者なのかよく分かっていない。
だけど、仕事スイッチがつねにオンになっていることだけは分かる。

「何もしてないようでいて、ちゃんとやってることは確かです。お店のことをすごくよく考えてくれていますから」

「ふうん」

彼らにとっても、亘理さんは謎の存在なのだ。