彼は開け放した運転席のドアに肘をかけて、ふっと鼻で笑ったように見えた。
どの口が言ってるんだかと呆れもしたが、いちいち突っかかるほど子供でもないので無視する。
この態度が彼には気に食わないようで、ピクリと眉を動かした涼が私の顔をのぞき込んできた。
「……なあ、俺さ、少し前に離婚したんだ」
「─────え?山越さんと?」
さすがに驚いて、目を丸くして彼を見つめる。
「そう。結婚したらあいついきなり態度変わってさ、すっごい心狭くなっちゃって。居心地悪くて。やっと離婚成立」
「そうなんだ……」
どうせ妻がいる身でありながら浮気なんかしょっちゅうしていたのだろう。
あんなに二人して私のことをバカにしていたのに、山越さんも限界が来たのか。どうでもいいけど。
自分で自分の身を滅ぼしているのも気づいてなさそうな涼が気の毒だ。
「仕事でもでかいミス連発しちゃってさあ。信用なくしてこの通り弁当の発注なんて新人がやるような雑用係。最悪だと思わない?」
「自業自得でしょ?辞めさせられないだけマシだと思ってやるしかないよ」
諭すように言ったつもりなのに、そうは受け取らなかったのか彼は私に顔を近づけてにやりと笑った。なにか、こちらとしてはゾクッとするような嫌な笑み。
「もしもフリーなら、瑠璃、俺ともう一回付き合ってみる?」
「…………冗談でもきついからやめて」
「なんでだよ、冗談じゃないって。さすがに俺も誰かに慰めてほしいんだよ。寂しいんだ」
「やめてってば!」



