すっかり忘れかけていた、涼が来る日。
彼は約束していた通りの日時にしっかりと現れた。

お弁当の数が変更になったようで、四十膳ではなく四十二膳。
それを、亘理さんと涼の二人で数を確認して、私がレジでお会計を担当した。

レジ打ちをしている間、一万円札を何枚か手にしてヒラヒラさせながら涼が私の手元を興味深そうに眺める。

「まだ信じられないんだよなあ。瑠璃がスーパーのレジやってんのが」

「どういう意味?」

「いや、だって俺の中では綺麗な服着てパソコンうったり、客や他部署と明るく電話したり……、とにかくこんな地味な感じじゃないんだよ」

そりゃあ、以前は仕事が仕事なだけに身なりには気を遣っていたけれど。今だって捨ててるわけじゃない。
お昼休みにメイク直しなんかしなくなったし、靴が多少汚れていても気にしなくなったし、スカートもほとんど履かなくなったけれど。

仕事がまるきり違うのだから当たり前だ。

アンサンブルニットにスカートという服が、白いトレーナーに黒いスラックス、そして水色のエプロンに変わっただけだ。

「地味で悪かったわね」

どう思われようと、私は今の仕事が好きだから何も感じなかった。


私たちの会話を亘理さんは聞いているのかいないのか、遠くを見つめていて特に反応もしない。

なかなかの高額になったお弁当代を支払った涼に、合わせて領収書も渡した。
それをきちんと確認して、涼は「ありがとな」と笑う。


あまり混んでいる時間帯ではなかったので、四十二膳を手分けして三人で彼の車まで運ぶことになった。
袋に何膳かずつ入れて、両手にひと袋ずつ持って駐車場へと向かう。

白いワゴン車のバックドアが開いており、そこへお弁当が入った袋を慎重に置いた。
一度では運びきれずに二度目の往復を終えた時、亘理さんが
「あとひと袋ですから、持ってきますね」
と言ってお店へ戻っていった。


「瑠璃はずっとここで働くつもりなの?」

手持ち無沙汰になったらしい涼が私にそんなことを尋ねてきた。

「うん、そのつもり」

「なんかもったいないな」

「楽しくやってるよ。やりがいもあるし」

「なんとなく、瑠璃はもう結婚でもして主婦してんのかと思ってたんだよ、俺」