「亘理さん、帰りは大丈夫ですか?」

「はい。雪道の運転はそんなに苦手ではありませんから。アイスバーンにだけ気をつけます」

このあたりの地域では冬に雪が降り積もるのは当たり前のことで、ちょっとやそっと積もったくらいで大騒ぎにはならない。
東京なんかは数センチ積もればたちまちニュースになってしまうが、こっちは雪でそんなに問題になることはない。


「私は雪道の運転、あまり得意じゃないんですよね。車を買う時に四駆を買うか迷って、結局やめたんですけど……。冬はわりと雪も積もるし、四駆にすればよかったなって毎年この時期になると後悔します」

話しながら、愛車は何年乗ったんだっけと考える。
前の職場にいた時に新車で購入したものだから、五、六年は乗っている。
あの頃は市内に住んでいたし、市外に住むなんて考えてもいなかった。市内よりも積雪量が多い市外に住むなら四駆にすべきだったが、まさかこんなことになるなんてその時は予想もしていなかったのだから仕方ない。

「昔、大学生の頃に友達と北海道に行ったんですが、そこで初めてホワイトアウトを体験しました」

おもむろに話し出した亘理さんは、吹雪いている外の景色を眺めて懐かしそうに目を細めた。

「レンタカーを借りて、男四人で車内でバカ騒ぎしながら高速にのったんです。そのあたりから雪が激しくなってきて、それで……」

「それで?」

「ホワイトアウトって、本当に何も見えないんですよ。フロントガラスが真っ白になるんです」

「運転していたのは誰だったんですか?」

「俺です」


単純な単語だけしか知らないホワイトアウトという言葉に、私は興味津々で身を乗り出した。

十年以上前の話をする彼が少し新鮮でもあった。
彼にもそういう体験があるんだなあ、と。
いつも落ち着いている亘理さんの、若かりし頃の話はなんだか変な感じがする。