一応、それとなく断りの方向へ持っていくために涼へ向き直る。
「今までに、そういったご注文は受けたことがないんだけど……」
「えぇー、そうなの?困ったなぁ、この店が近いから取りに来るのもラクだと思ったのに」
ポリポリと頭をかいて、あからさまに困った感を出して腕を組んでいる。
こういうのも彼は以前から計算のうちでやっていたんだろうな、と今さらながら感心した。
「この近くで何かあるの?」
「今度、大口の新規顧客にプレゼンする機会があって。人数も多いし、ちょっと豪華な弁当を取ろうって話になったんだよ。クライアントの会社がすぐそこでさ。……だめかなぁ?一週間後に、四十膳」
「…………ちょっと待ってて。店長に聞いてくる」
亘理さんは勤務時間は終わってるけれど、事務所にいるはずだ。
彼のことだから、相談に行けば嫌な顔ひとつせずに聞いてくれるだろう。
大熊さんはあとはお願いねとレジへ戻っていったので、とりあえず涼をお惣菜コーナーへ連れていった。
どんなおかずがいいのか選ぶように伝えて、私は店舗裏の事務所へ走る。
事務所に声をかけると、亘理さんが不思議そうな顔をして出迎えた。
「何かありましたか?」
「あの……、お弁当の注文したいというお客様が」
「そうですか。どのお弁当をいくつですか?」
簡単にメモを取ろうとしている彼に、違うんです、と首を振る。
詳しく事情を説明すると、おもむろに亘理さんが立ち上がって外していた水色のエプロンを身につけ始めた。



