その日はずっとソワソワしてしまって、早く仕事が終わらないかなあとひたすら腕時計を眺めるという行動を繰り返してしまった。

こんなことなら、ちゃんとした服で出勤してくれば良かったと後悔する。

もう一緒に住んでいないのだから、顔を合わせる時間もぐっと減ったことになる。
色気のないスキニーじゃなくて、せめてスカートをはいてくるべきだったと朝の自分を恨んだ。


閉店時間まであと一時間弱という、客足のピークが過ぎた頃。
レジ業務は大熊さんにお願いして、私は店内の商品棚の整理をするために歩き回る。
乱れたところは直して、期限切れになりそうなものは取り除いていく。
遅番の仕事の一環だ。

黙々と作業ができるこの時間帯ならではの地味な仕事ではあるが、私は何気に好きだったりする。


その作業中に、どこからか聞いたことのある男性の声が聞こえた。

低くて、ちょっと癖のある鼻にかかったような、甘い声。
─────誰だっけ……。


考えているうちに、遠くから「瑠璃ちゃーん!」という大熊さんの張り上げた声が聞こえて反射的に立ち上がった。

はーいと返事をして、レジの方へ向かう。
そして、そこへたどり着く前にさっき聞いた声の主のことを思い出した。

走っていた足が、止まる。

自分の身体が自分じゃないみたいに、意に反して動いてくれなかった。


「えっ!?瑠璃!?嘘だろ、ここで働いてんの!?」

私を見つけて、驚いて大きく目を見開いたその人が、大股で近づいてくる。
イケメンで、背が高くて、仕事もよく出来た彼は、営業の次期エースと呼ばれていた。そして、三年前の私をどん底に突き落とした─────

「涼……」

小池涼。私の元彼。