相変わらずパソコンの画面から目を離さず、亘理さんは今後の指示をどうするか考えていた。
「今日は二十五日ですし、おそらく夕方には混雑も落ち着くと見てます。惣菜も作る方は十五時でストップさせますね。無駄な廃棄は出したくありません」
「そうですね。オリジナルケーキは飛び込みのぶんは売れてますか?」
「そこそこいい感じです。昨日に比べたら全然振るわないですが、これは想定内です。どちらにしろ、見込みより売れてますから結果オーライです」
サンタとトナカイが、二人でパソコンをのぞき込む。
仕事の話をしていると、色々と考えなくて済むからいい。
数日前に私が泣いたことを、あれから亘理さんが触れてくることは一度もなかった。
私もあのあとは普段通りに戻ったし、メソメソして蒸し返すこともしなかった。
いつ彼が引っ越してしまうのか、それはまだ気になったままだけれど。
「今日は閉店後、一気にお正月の装飾に変えて、入口の什器を変更してお餅やおせちなどの材料を打ち出します」
ぼんやりしていたら、亘理さんがそんな話を始めたので頭を現実へ引き戻す。
「本社から送られてきたおせちのレシピは、コピーして裁断してあります。事務所の机に置いたんですけど、分かりましたか?」
「はい、気づいてました。さすが仕事が早いです。ありがとうございます。カラーにして正解でしたね。白黒では出せない華やかさが、ちゃんと出せてました」
「料理教室で若いママさんたちが、おせちの作り方が分からないって言ってたので……」
「少しでもヒントになって良かったです。あ、料理教室ですが、かなり好評でしたのでこれからも月に一度か二度のペースでやっていこうかと」
そうなんですか!?と少し驚いていると、彼は腕時計で時間を見て慌てて立ち上がった。
「休憩時間が終わりそうです」と。
自分が企画したものとはいえ、料理教室が参加した人にどう見えたのか不安もあった。
好評と聞いてひと安心した。
廊下を歩きながら、亘理さんがサンタクロースの衣装のベルトを締め直す。
その後ろ姿を眺めて、彼は今はとてもスマートな体型だけど二十年後にはメタボ体型になるのだろうか?と思いをめぐらした。
すると彼がくるりと振り向く。
「白石さん」
「は、はい?」
トナカイの頭をかぶろうとしていた手を止めて、白いヒゲをつけた彼を見つめる。
「体調が悪くなったりした時は、遠慮なく言ってください。すぐに裏へはけましょう。最終日ですし、疲れがたまってるはずです」
……優しい。
「はい、ありがとうございます」
この優しさも、もう少ししたら職場でしか味わえなくなるのかと切なさも滲んだ。
だけど、今は。
仕事に集中しよう。
私は三日間でかぶり慣れたトナカイの頭を、自分の頭にかぶせた。



