ハイスペックな若いイケメン店長が来るという噂で持ち切りになった店舗に、実際にその人がやってきたのは数日後のことだった。
いつもの朝、いつものように出勤して着替えて、いつもの場所でタイムカードを押し、いつものように開店準備を始めていた。
売上が好ましくないので店舗へ並べる商品数はぐっと減らし、なるべく破棄が出ないように前店長に指示されていたので、そのように売り場をディスプレイする。
地味に頭を使う仕事である。
開店前なのでパートの人たちと世間話をしながらあれやこれやと売り場を作っていく。
今日は朝から業者さんが天井の室内灯のチェックをしていて、大きな脚立を立ててその頂点で作業している人がいた。
「楽しみだわぁ、新しい店長!早めに来るって聞いてたけど、まだ来てないみたいね」
大熊さんがレジ金をレジにセッティングしながら、静かな店内に響き渡るような声で楽しげに笑った。
同調するみたいに他のパートさんたちも「歓迎会いつにする?」とか「彫刻顔のイケメンがいいわね〜」とか、好き勝手騒いでいる。
こういうほのぼのした空気感は、いつものことである。
そしてパートのおばちゃんたちの会話はあちこちに飛び火するのだ。案の定、私にも火の粉が。
「ねぇねぇ!もしも新しい店長が独身だったら、瑠璃ちゃん狙っちゃえば?」
「いやぁ、それはちょっと……」
「なんで?彼氏いないんでしょ?」
答えを濁しても、そんなものは彼女たちには通用しない。ガンガン攻めてくる。
「寂しいじゃないの〜。一人で過ごしてて虚しくならない?」
「まあまあ楽しいですよ。気ままに映画見たり外食できますし!もう焼肉もカラオケも一人で全部行けちゃいます!」
「あらまぁ〜」
若いっていいわね〜とゲラゲラ笑われ、褒められているのか貶されているのか怪しいなぁと感じつつも笑顔で乗り切る。
すると、どこからか「あっ」と男の人の声が聞こえて、続いてパリーン!と何かが割れる音がした。



