「じゃあね、和奈!寂しくなってもすぐに会いに来ちゃダメよ!」


もう一つ上の階へ向かおうとした時に千尋の声は私を立ち止まらせた

振り返ると顔の横で小さく手を振る
そんな姿が可愛らしく思えた

また放課後部室で会うというのに、私のことを心配しているのか、茶化しているのかわからない子だな

別に永遠の別れじゃないんだから

適当に返事をすると大袈裟に泣いたふりをしながら千尋は走って教室へと向かってしまった


「あっ」


悪いことを言った。

とは思っていない。これは私たちのいつものノリなのだ。これはこれでいい。だが、こうやって1年間同じ教室に向かっていた千尋が離れていってしまうことが私は思った以上にショックだったことに気づく

未来とかなみ、かぁ

そして咲田

昔の親友たちとまた昔のように…私たち4人幼なじみでクラスに固まってしまったこと

誰が仕組んだイタズラなんだいったい

そう思いながら階段を上っていく
4階建ての校舎の2階
1番奥の教室
1年の頃はこの忌々しい階段をなんと4階まで登っていた。あの時は辛かったな

ただでさえ運動とは無縁の人生を歩んできていたのに、体力のない私はこの階段だけでよくへばっていた
そしてそれを見て千尋は毎回ゲラゲラと笑うのだった

それも、なんと懐かしい2年前のことだ、きっとこの1年だってあっという間に過ぎてしまうのだろう

手前にある1組の教室の前を通ると締め切った扉から騒がしい声が聞こえてきた
うるさいな
でも、それよりも酷い状況を私は見てしまう
扉は開けっ放し…というか人がその扉を塞いでいた

なに

状況の分からない私は自分の教室に入ることが出来ず、1組の教室の前で呆然と立ち尽くしていた

時折聞こえる悲鳴にどうしようもない恐怖を、感じた。1年間、私はこのクラスに…
こ、怖いな
私の静かな毎日が乱れる…のか…
私はなるべく仲のいい友達と、変わらない日常を生きていきたいのに…
扉の前の人混みを前にあのー入れないんですけど…なんて言うことも出来ず

人の壁から教室を覗くと教室内の人の数ははそれほどでもなかった

なんでみんな入らないんだろう