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「ノー登校デー?」

そう。きっかけは彼の世間話。あれは私がまだ担任を持ったことが無かった教員生活2年目の頃だ。初年度研修を終えてまだ時間に余裕が出来たものの、部活動指導のために休日返上の毎日。教師が忙しいことは百も承知だし、やりたい仕事だったから、苦痛でも何でもない。
憧れの国語教師。そして、中学、高校と続けてきた女子バスケの顧問。楽しくて仕方なかった。

「そう。教員の働き方改善改革の一環で教育委員会が言い出したんやて」

社会科の先生であり、男子バスケの顧問だった最上先生は、比較的接点が多く、時々会えば世間話をした。私より3つ上で、生徒からも好かれ、授業も上手い。関西出身で私が勤める高校の中で唯一関西弁を話す先生だった。

「月に1回の日曜日、その日は生徒も先生も学校に来たらあかんねんてさ」
「強制的に休みを取らせるってことですよね」

今までずっと仕事だった私。そんな私に休みをポンと与えられても、何をすればいいのか分からない。

「山添先生はノー登校デーが出来たら何するん?」
「家で教材研究ですかね〜」

我ながら寂しい休日だ。結局、仕事からは離れられない。

「彼氏さんとデートとかは?おっと、これ聞いたらセクハラになるんやっけ?」
「別に構いませんよ。そんな相手は長いこといません」
「友達は?」
「学校卒業と同時に連絡が途切れました」

私は教育学部卒業で、殆どの友人が教師をしている。そんな友人と日を合わせて会おうなんて、難しい話だ。

「寂しい奴やなぁ」

哀れむような口調とは裏腹に、最上先生は破顔していた。目尻のシワが可愛い。

「じゃぁ、可哀想な山添先生。俺とどっか行くか?」
「お。デートのお誘いですか?」
「アホ。教材研究の一環や。俺と寺巡りでもしようや」

日本史担当の最上先生はどうやらお寺巡りが好きならしい。私もまた、古典が大好きでその歴史的な場所を訪れるのは結構好きだ。

「行くか?行くよな?」
「彼女とデートする予定がない最上先生が可哀想なんで、行ってあげます」
「お前なぁ」

呆れる様に笑う彼のその笑顔が好きだった。教材研究だと言われると抵抗も少なかったから、月一に彼と何処かに行くのもいいと思った。