「………何してるんですか、栄斗、先生。オンナノコを怖がらせるなんて。」
そう言ってから拓人はフッと鼻で笑った。
拓人ってこんな笑い方もするんだ、なんて思っていた私は、ちょっと遅れて今拓人が言ったことがおかしいとわかった。
「拓人…?もう一回言って?」
「オンナノコを怖がらせるなんて。」
え……?女の子?ここで怖がっているのは、玲央と………私。
まさか拓人がそんな昔から知ってる人を女の子呼ばわりするわけない。すると、拓人がこっちを向いて、笑顔で
「ね?葵チャン?」
と言って来た。そこで私は完全にフリーズしてしまい、後はもう大変だった。とりあえずお兄ちゃんが私たちを寮に帰して、私たちはそこで話し合うことになった。あの時何故拓人が来たのか聞けば、教室でみんながドアのところで騒いでいた。見ると、そこにいたのは私の連れていたシマリスで、いじめられでもしたら大変だから、学園長室にいると聞いて連れて来たとのこと。でも、未だに何で私が女だと知っていたのかはわからないままだった。

「………まあ、とりあえず、俺がなんで葵が女の子なのかを知っていたのは、今から言いますよ。」
そう言った拓人に私は息を飲んだ。
「まず、最初におかしいと思ったのは、栄斗の態度です。いくら幼馴染といえど、人といるのが嫌なやつが、率先して葵を守ろうとしているんです。そして、次は学園長と俺たちの担任の先生の、勇斗さんです。あの二人は、怖いということと、静かでクールというイメージがありますが、葵の前だけでは違いました。兄弟(兄妹)や従兄弟(従兄妹)なのは分かりましたが、学園長と勇斗さんの間ではそういうのは全く見えませんでした。」
今聞いた内容に、私は思わず声をあげた。
「そうなの!?」
「何がですか?」
「えっと、栄斗が人といるのが嫌いとか、お兄ちゃんと勇にぃが静かでクールとか………え?ちょ、ちょっと待って、あれ?あれって普通じゃないの?」
私がそういうと、三人は苦い顔をした。
「葵。悪いけど、隼人さんと勇斗さんはすごいシスコン(?)だぞ。むしろ、知らなかったのか?」
「え、え?あれって、ほかの家庭でもそうじゃないの?普通のことじゃ……?」
「「「そんなわけないだろ(ですよ)」」」
「そ、そうなんだ……あっ、ごめん。話し続けて?」
私がそう言うと、拓人は続けた。
「次に、日下財閥のことです。」
拓人がそう言うと、玲央が首を傾げた。
「日下財閥?何でそれが出てくるんだよ。」
そこで私たちは玲央が私とお兄ちゃんが兄妹でその家のものだと言うと、やっと納得がいったと言うように、1人で頷いていた。
「まあ、その時昔聞いたことを思い出して、確か女の子が1人いること、そしてその子が俺たちと同じ歳なのを思い出したんです。まあそれで、今朝からの玲央の葵に対する扱いが変わったことを踏まえて、女の子という事を話しに出したまでです。」
私はそれを聞いて、素直にすごいと思った。そこまで分析して、私が女という事を見抜いたのだから。

「まあ、話はここまでにして、今度は葵が話してくれませんか?」
「え、あ、うん。」
そして、私は2人に私の知っていることを全て話した。

「えっと、私ね?両親がいなくて、それで、親戚に引き取られたんだけど、お兄ちゃんはあんまり私をそこに置いときたくないみたいで……それで、まず私をアメリカの大学に入れたの。」
私はそこで一旦言葉を切った。玲央と拓人の顔には驚きが隠せないといった風に、今彼らが考えていることが手にとってわかるような気がした。
「アメリカの……」
「大、学?」
「うん。おかしいよね?でも、みんな私を受け入れてくれた。3年間、中学生の間にね、大学に通って、あと一ヶ月で卒業って時に、お兄ちゃんから電話がかかって来て、この学校に来てって言われて。それで、いまのこの格好で来てって言われたから、行ってみたら、この学校に入れって。」
そこまで話してから言葉を止めてからもう一度玲央と拓人の顔を見ると、2人は口をポカーンと開けたまま固まっていた。
「玲央?拓人?あれ?ねえ、栄斗、2人が変。」

「仕方ないよ。今考えている最中なんだから。葵のお兄さんの頭についていける人とか、そうそういないよ。隼人さん、ちょっと発想飛びすぎでついていけないし。」
そういうので、私たちは待つことにした。