部室は整理され、汗臭さは感じなかった。
代わりに制汗剤のシトラスの香りが室内を囲む。
「ここ、座って」
椅子を引いてもらい、座ると紙とペンを差し出された。
学年、クラス、番号、氏名の後に確認事項に目を通してサインを押す。
「書けた?それでマネ?部員?」
「えっと、私そもそもよく分からないんですけど‥パルクール部ってなんですか?」
「はぁ?知らないで来たのかよ。まあ、これ見ろよ」
そう言ってタブレットを受け取ると有名な動画サイトの動画が再生された。

「えっ‥」
もはや、人間じゃない。飛び越えて、掻い潜って道無き道を切り開き自由に走る人を見て驚きを隠せない。
今更になって自分には無理だと知った所で、体験入部の用紙は出してしまったし、担任にも何かと言われる。
適当にやり過ごして、自分には合いませんでしたって言おう。
「部員は何人ですか?」
「5人。だからぶっちゃけマネは要らないんだけど一応、マネ希望が18人?位だな」
「へー、マネが18人ですか。多いいですね。私は部員希望で」
さっき見たあの団体を思い出す。あの子達はマネ希望の子だったんだと苦笑いで誤魔化した。
「意外だな。まぁ、いい。取り敢えずグラウンド行くからついて来い」
「はい」
数歩先を歩く背中を見てなんだか感じが悪い先輩だなと考えているうちにグラウンドまでやって来た。女の子の集団を抜けると中心にあと3人いるのを見つける。
「マネ候補?」
「残念、部員だ」
高身長に見下される私。何処とない威圧的な空気に頭を下げて挨拶をする。
「1年F組の兼高絃です」
「俺は部長の遊馬律。宜しくな」
なんとも爽やかな笑顔を向けた彼。女子ウケしそうな甘い笑顔に外野の女の子の声が一層大きくなった。
クルっとしたパーマは少し長めで片方を耳にかけている。女の子なら誰でも欲しい二重の目は大きく、瞳が微かに茶色を帯びていた。
「パルクール部へようこそ!僕は2年の龍田依彦!」
両手を挙げぴょんぴょん跳ねる彼。少し明るい茶髪に似合った可愛い顔立ちに微笑ましくもなる。