『…お母さんが、ダメだって。女の子はね、一度出ると絶対帰って来ないから。だから、大学は行かなくていい…って』
この街の風習だろうか。女の子は、滅多に街から出なかった。人里離れた街。親達も、可愛い娘を都会に送ることに多少なりとも不安を覚えるのだろう。
でも僕は、納得できなかった。
渉にこんな、諦めた様な笑顔は似合わない。
『…諦めんなよ』
僕の真剣な言葉に、渉も笑顔を凍らす。
『大学、行きてぇんだろ?ちゃんと絵の勉強してぇんだろ?だったら少し反対されたくらいで引き下がるなよ。そんなん全然渉らしくねぇよ』
僕の真剣な表情に渉は驚いていたが、少し俯いてから僕の学ランの裾を握った。
『…一緒に、頼んでくれる?』
…今考えると、後にも先にも渉が僕に頼み事をしたのはあれが初めてだった。
小さな頼み事は沢山あったかもしれないけど、あんな真剣な頼み事はあれきりで。
それだけ渉にとっては大きな事で、それでいて大事な事だったのだ。
今でも僕はわからない。
あの時渉の背を押した事は正しかったのか。
間違ってなんか、なかったのか。



