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潮風が濃くなった気がした。僕は渉の残像を海に流し、再び歩き出す。
海から少し離れた場所に小さな集落があり、僕は軽く深呼吸をしてそこへ足を向けた。
いくら決意を固めて来たと言っても、やっぱりどこか落ち着かなくて。
集落の入り口に、あの頃と変わらない小さな公園があった。
色の薄くなった象とパンダは、あの頃のままひっそりと僕達を待っていてくれている。
僕はそっと象に手を触れ、隣の鉄棒に腰を下ろした。
あの日も僕はここに座り、渉はお気に入りのパンダの背に座っていた。昔から渉は、悩んでいる時は必ずと言っていい程この場所に来る。
『穣はこの街を出るんだよね?』
パンダの鼻を撫でながら、渉は呟いた。
僕は足許の砂を蹴りながら、『あぁ』と答える。
『そっかぁ…』
渉はそれきり黙ってしまって、僕達の間にはただ生ぬるい秋風が通り過ぎるだけだった。
『渉は、出ねぇの?』
沈黙を破ったのは僕の声で。渉は顔を上げて僕を見て、そして諦めた様に笑った。



