渉のぶんまで生きるなんて、そんなかっこいいことは言えないよ。
渉は渉の人生を生きたんだから、僕がそれを引き受けるなんて可笑しな話だし。
だから僕は、僕の人生を生きる。
もし暇だったらさ、たまに渉は、それを見てて。
転んだら笑っていいから。手を差し伸べてくれなくてもいいから。
坂道を登ったら、そこにあるのは無人駅。
蝉の鳴き声はもう聞こえない。
世界はまわる。
目まぐるしく、時は動く。
僕は一度だけ振り返った。
微かに見えるマリンブルーの海に、小さく呟く。
「…またな」
電車に揺られながら、僕は歯車の中に戻ろう。
無情とも呼べる世界。その中にも確かに愛はある。
誰もがもがきながら、それを求め続ける。
そうやってみんな、生きている。
渉のいない世界。
不安定な足下のまま、僕は歩き続ける。
大丈夫。もう、引き返すことはない。
マリンブルーの幸せを、僕は確かに胸に焼き付けているから。
…目を閉じたら、いつかの渉の後ろ姿が見えた。
その背中は、変わらずにしゃんと伸びていた。
~fin~



