「…渉が言った?」
「え?」
「渉が、一度だって穣のせいだって言った?」
母さんの真剣な瞳が僕を包み込む。
僕は子どもの様に、眉を寄せて首を振った。
「言うわけないわよね。だって渉は、ずっと穣に感謝してたんだから」
母さんがそっと、僕の前に白い筒を差し出す。
輪ゴムで止められたそれは、確かに画用紙だ。
「渉、言ってたわ。穣はいつも、自分の背中を押してくれる。直接穣には絶対言えないけど…穣がお兄ちゃんで、よかったって」
『穣って全ー然お兄ちゃんっぽくない!あたしの方が、しっかりしてるもんねっ』
意地悪な笑顔が瞼に浮かぶ。
目頭が熱くなった気がして、僕は思わず手元の画用紙を開いた。
…目を見開く。
画用紙に吸い込まれる様に、僕は堪えられずに泣いた。
「穣と双子に産まれて、あたしは世界一幸せだって」
母さんの手が、僕の震える掌を包んだ。
白い画用紙いっぱいに描かれたマリンブルーの海。
防波堤の上を歩くのは懐かしい渉のシルエットで、その横を歩くのは、確かに昔の僕で。
時が止まっていた。
確かにその絵の中には、あの頃のままの僕達がいた。
幸せな、渉がいた。
「…渉…っ」



