…渉は、列車事故で死んだ。
横浜の大学に進学した渉は、しょっちゅう東京にいる僕に会いに来ていた。
その事故も、僕に会いに来た帰りに起こったのだ。
もう遅いから泊まって行けばと言う僕に、『早く作品仕上げちゃいたいから』と笑顔で手を振った渉。
まさかその笑顔が、最後の渡だなんて思いもしなかった。
僕は何度も自分を責めた。
…あの時無理にでも泊めておけば。そしたらあの列車にも乗らずに、事故にあうこともなかった。
そもそも、この街から出なければよかったのだ。そしたら今も、渉は笑えてたはずで…。
「…俺のせいだ」
握りしめた拳が、じわっと汗をかいた。
「…穣」
母さんの声で頭を上げる。それは余りにも真剣な声で。
「そこに座りなさい」
母さんの顔も、今まで見たことのないくらい真剣な表情だった。
僕はただ、罪悪感に包まれたまま母さんの前に座る。
蝉も風も、音をたてるのを止めた。



