マリン・ブルー


「…穣ちゃん?」

ふいに前方から僕を呼ぶ声がして、僕は思わず頭を上げた。

目の前には、頬被りをした腰の曲がった女性。僕は懐かしさで胸がいっぱいになる。

「越野のばあちゃん…」

ばあちゃんは驚いた様に目を丸くしていたが、僕の声にしわしわの目許をゆっくり細めた。
その笑い方は、昔と何ら変わっていなくて。

「帰ってたんかね」




…集落のふもと、公園のすぐ側にある駄菓子屋さん。そこの主が、越野のばあちゃんだった。

「変わってねぇな、全然」

駄菓子屋に足を踏み入れる。少しだけ天井は低くなったが、駄菓子の種類も、木の香りも、壁に張ったポスターも、何も変わってはいなかった。
「まだねぇ、こんな街にも子ども達はいるからねぇ。あの子らぁのおやつが無くなったら困るでしょう?」

ばあちゃんは、あの頃より少し曲がった背をくっと伸ばして、レジの前に座った。
レジと言ってもレジスターがあるわけではなく、ばあちゃんが昔から使っている大きな算盤と小銭の入ったお菓子の空き箱があるだけで。
それもこれも、僕達が来ていた頃のまんまだ。