ほんの数時間しかない私たちが出掛けられるのは、せいぜい庭の小高い丘まで。
ここからは、広くて自慢の庭が一望できます。
そこは、祖父がお抱えにしていた庭師が四十年かけて作り上げたもので、四季を問わず鮮やかな景色が見られるのです。
一番見事な薔薇の季節は終わったけれど、私が生まれた時に作られた“白の庭”は、豊かな緑の濃淡の中に、白い紫陽花が満開でした。
「とても広い国のお姫様なのに、こんなに狭いところにしかいられないんですね」
誇らしげな私の隣で、あなたの声は悲しそうでした。
「別に不自由はしてませんわ」
哀れまれるようなことではないのに、あなたの表情はますます翳りました。
「他の国には、翡翠色の湖も、真っ白な気高い山も、どこまでも広がる青い海もあるそうですよ」
そんなものは絵画の中で十分知っています。
それで満足していたはずなのに、あなたの口から聞くととても魅力的に思えてしまって、
「では、あなたが見て、お話を聞かせてくれればいいですわ」
と胸を踊らせながら答えていました。
少し考えれば、それがただの夢でしかないことなどわかるのに、あの時の私は、いつまでもあなたがそばにいてくれるような気がしていました。
「自分でご覧になりたいとは思いませんか?」
蜂蜜色の目に、別の色をたたえて、あなたはあの質問を、どんなつもりで言ったのでしょう?
どんなつもりであれ、私の答えは変わらなかったけれど。
「私はずっとここにいます」
これだけは負けずに、その蜂蜜を貫くように告げました。
「私の務めはここにあります。私にしかできません」
きっとあなたはずっと迷っていたのでしょう。
あなたにはこの話を断れない事情があって、他に選びようもないのに、ずっと迷っていた。
それをあの時、決断したのですね。
あなたにどんな事情があろうとも、迷う理由があろうとも、私の方でも引けないのだと、あなたにもわかったから。