――体育祭。

それは、運動部の活躍する舞台。

文化部にとって、これからの扱われ方が変わりかねない、恐ろしくもおぞましい地獄。

そして俺は後者に所属しているのだった。

あぁ、雨でも降れば良いのに。予備日も全部。

「どーしたのよ、そんな浮かない顔して」

葵が話し掛けてくる。

「別にー。ただ、雨ふって風吹いて冬を先取りするくらいになって、雨にも風にも冬の寒さにも負けるような体育祭になればいいのにと思ってな」

「『別に』に怨念が込められているように感じるのだけれど?」

「んで、そっちはどうなんだよ」

「どう、って?」

「体育とか、運動は苦手とかじゃ無いのかな、と思ってな」

「普通よ、私。苦手ってほどでもないし...というか、あんたこそ男の癖に運動苦手とか......かわいそ」

「ちょっとその無駄な慈悲、グサッと来るんだけど!?」

「――そろそろ始まるわよ」

「はぁ...」

そんなこんなで体育祭。

『入場~。その場足踏みー始めっ!』
一、二、と掛け声が聞こえてくる。

皆燃えてんなぁ...。

開会式、選手先制、国歌斉唱、国旗校旗コミュニティ旗掲揚...と小学校からの定番プログラムが続く。

学年種目が一年二年と続く。
応援は何処の組も熱心で、熱い。
それぞれの組の色のメガホンを持ち、叫ん――応援している。

そんな光景を冷めた目で見ながら、同じ組のクラスを観戦する。

俺のクラスは青組。赤、青、白、黄、緑、ピンクの全6組がある。
ピンクにならなくて良かったと心から思った。
ちなみに吉和は毎年ピンクであり、勿論今年も例外ではなかった。

ぷ。

昨日の発言への天罰が下れ。

なーんて考えているうちに俺たちの学年種目が始まる。

入場。

今年の学年種目は綱引き。
というわけで、位置に着く。
パン、という銃声と共に、太い縄を引く。全体重をかけて。
左側は女子、右側は男子。またも番号順の為、葵が隣で引いている。

そこそこ真剣な表情だな...葵まで燃えているとは...。

所々、絞り出したような声が聞こえてくる。

『パンッ』
「そこまでっ!青組の勝ち!」
「「イェーイ!!」」
皆の歓声がわっとあがる。

結果、青組は学年種目を制覇したのだった。

続く他の競技も勝ちまくっていた。
今のところ、全勝だ。

残るは、最もプレッシャーの高い地獄競技最難関、リレーのみとなった――なってしまった。
ついに。
あの。
伝説の。
リレーです。

「はぁ...」

「また溜め息?大丈夫でしょ、中3にもなってこけないわよ」

「俺、小学校のときからずっとこけてるんだよ...」

「じゃあ、これあげる。意識向上のメモよ」

ズボンのポケットから彼女が取り出した紙。
そこには彼女の字で言葉が書かれていた。

『頑張って』
『昔の事なんて関係ない。今を楽しめ、今を』

そう書いてあった。
二言目が少し気になったが、俺もそう思うので本人には聞かない事にした。

さあ、リレーが始まる。