次に目を覚した時には両手、両足の自由が効かなくなっていた。




ガチャガチャ、と嫌な音を立てて何かが固定してくる。




こんな状況でも分かる




鈴峰に迷惑かけてる事




こんなとこで捕まってちゃいけない事




…何してんだろ




何があっても鈴峰を守るとか




鈴峰の力になりたいとか




鈴峰の負担を減らしたいとか




鈴峰が頼る存在になりたいとか




これじゃ口だけになってる




鈴峰に助けられたあの日に誓ったのに




自分と約束したのに




どうして力になれないの…?




足引っ張ってるだけでなんの役にも立てない




突きつけられた現実に悔しくなった




泣きそうになる自分にも腹が立った




少しでも力になりたいのに




こんな所で泣きそうになっててどうするの?




「お?起きたんやな!」




あのエセ関西弁が聞こえてきた。




ハッと顔を上げた。




そこには今まで見たことない人が立っていた。




非常階段みたいな所を飛び降りた。




は?危ない!!





「ん?なんや、死ぬとか思っとんか?」




いや、誰でも思うでしょ!あの高さ




「ヘーキやで?俺タフやから」




知らない、知らない




なんでこんな所で拘束されてんの?




「外してくれる?なんの意味があってやってんの」




「あぁ!それな!鈴峰はんが来る理由作ってん」




やっぱり、鈴峰か…




「多分そろそろ来るで?俺らの思い出の場所やからなあ」




ニコニコ笑うその人。




なんとなく分かった




影狼だ、って




私は餌か、って




鈴峰は絶対来る




私がココにいてもいなくても




思い出の場所なら尚更




「私、必要ないんじゃない?」




手元を揺らして大きな音を出してみる。




「…うるせぇな、死にてぇの?」




空気が変わった。




口調も表情も全てが鋭くなる。




影狼が取り出したのは…銃だった




「今私を殺したら鈴峰を釣る餌にならないよ」




少し怖気づいたのを隠すようにニコッと笑ってみせた。




「あぁ、それなんやけど今は怪我させるくらいやから安心しーや?」




ニヤニヤしながら影狼が言った。




その言葉のすぐ後に大きな銃声がした。




目を瞑ったのが先か、左手を撃たれたのが先かも分からない程早かった。




もはや痛いのかすら理解出来ない




何かが足にたれた




…血?




どんどん流れ出てくる。




意識が朦朧としてきた。





ードーン!!!




扉が倒れてきた。




一気に光が入ってくる。




そこに人が立っているけどシルエットしか見えない。




だけど、シルエットだけで分かる…銀狼。




「てめぇの相手はあたしだろ?!余所見なんかしてんなよ、雑魚」




銀狼の眼をした鈴峰。




倉庫に響く影狼より鋭い声色。




何年一緒にいても慣れない恐怖感。




どんな奴が来ても怖くなくなった今でも銀狼は怖い




「おー?やっと来た!遅ぇから来ねぇかと思ったわ!」




声を荒らげる影狼。




「蜜月も…帝も、見捨てるなんて出来ない」




静まり返る空間に響く声。




それは力強くてだけどどこか儚げで私の心を掻き乱す。




「帝は元気ー?」




完全に標準語に戻った影狼。




「もちろん、あたしの中で元気に笑ってるよ」




ニヤッと笑うと影狼に向かって走り出す。




「最近、星宮なんとかって奴が尊敬してた総長さん殺したんだけどさ。そっちに星宮って奴来てねぇの?そろそろ来てると思ったんだけど」




その言葉に鈴峰が止まる。




星宮って、転校してきた?




「此処に呼んでやったんだよね。月組総長が来るよって」




「別に全国くらいに殺られるような弱いあたしじゃない」



再び影狼を殴ろうとすると影狼が口を開いた。




「その総長の事殺したの、あんただって思われてるよ月組総長さん?」




「またその手か、全国No.1をコキ使おうと?死ね」




銀狼は吐き捨てた。




お得意のやり方って訳ね…




すぐに物凄い量のバイクの音がする。




「こんなすぐに来るなんて随分キレてるねぇ?」




楽しそうに言う影狼。




さすがに1人で全国No.1を倒すのは時間がかかるはず




私は思いっきり立ち上がった。




拘束していたのが全部壊れた。




片手しか使えないけど加勢してやる




「鈴峰を殺ろうとする奴は全員死ね!」




私の音と声に2人が振り返る。




「ほぉ?でも俺の出る幕ではなそうじゃね?」




倉庫の中に走り込んで来た星組たち。




「それにあんた片手使いモンになんねぇじゃん」




私のそれを指差して鼻で笑う。




「黒狼はそんなんじゃ弱らないから」




睨みつけると星組目掛けて走り出す私たち。