心をかき乱されたせいで相手が女だということをすっかり忘れていた。
手加減しなかったせいでユリカの手は真っ赤になった。
…まずい。
ユリカの痛がる顔を見て青ざめた。
ユリカは良家のお嬢さまだ、もしも傷になったら莫大な慰謝料とか請求されるかも知れない。
そんな金、ウチにあるはずがない。
『ちょっと来て下さい』
とりあえず患部を冷やそうと誰も利用していない旧校舎の水道までユリカを引っ張ってきた。
人目を避けたのはユリカ自身がどこにいても目立つのと、目撃されたことで良からぬ噂が立つのを防ぐため。
『すみません、こんなつもりじゃ』
ユリカの手を水で冷やしながら謝る。
『ううん、私が調子に乗っちゃったから。あんまり親しくないのに馴れ馴れしくされるの嫌だったよね? ごめんね』
ユリカは切なそうに弱々しい笑顔でそう言った。
――この人に、こんな笑顔は似合わないな。
――この人はもっと屈託なく笑ってるほうがよく似合う。
自分がさせてしまったユリカの弱々しげな笑顔に胸が苦しくなった。

![Eternal Triangle‐最上の上司×最上の部下‐[後編]](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.778/img/book/genre1.png)
