翌日の昼休み、本を読み終えた俺はそれを持って2年のユリカの教室を訪ねた。
『蓮実先輩います?』
ちょうどドア近くの席に着いていた、見るからにがり勉風のメガネ男に声をかけると、
そいつは物色するように俺の頭のてっぺんから足の爪先までを眺めて、わざとか隣のクラスにまで聞こえるような大声で言った。
『蓮実ー、1年の福嶋がおまえに用があるってさー!』
がり勉男の声に教室内が一気にざわつく。
たちまち好奇の目が自分に集中した。
蓮実ユリカを呼び出そうなんて大それたことしてるせいかそれはある程度覚悟してたけどさ…
それよりも何で俺はおまえの名前知らないのにおまえは俺の名前知ってんの?
昨日のユリカといい、知らないところで噂になってんなら気味悪いな。
『福嶋くん? どうかしたの?』
ユリカが俺のところまでわざわざ走ってやってきた。
『これ、昨日の本』
『もう読んだの?』
もともと大きい瞳をさらに見開いているユリカ。
驚くのは無理もない。
俺たちが同時に手をのばした本は1日では到底読めそうもない分厚さだ。
だけど俺は寝る間も惜しんで、授業中も隠れて読み、たった1日で読破した。
どうしてもユリカに早く回してあげたくて。
それを聞いてユリカははにかみながら『ありがとう』といった。
人から『ありがとう』と感謝されるのはすごくくすぐったい気分になるけど、
だけどユリカからの『ありがとう』は、くすぐったいのと同時に、なぜだか安らぐような、居心地のいいあたたかさを感じた。

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