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なんて、昨日まで考えていたバチが当たったんだろうか。あたしの家の前に見慣れない車が停まっていた。
「なんだあ、ありゃ?」
「スモークガラスだし……怪しいね」
今日は悠唏は理流と街に遊びに行くらしく、龍毅と僚があたしを家まで送ってくれていた。
「どうしようか……倉庫に戻る?」
「ううん…どうしよう。パパたちの新しい車だったりするのかな」
「風斗さんならスモーク張るかもしれないけど、ハマーは選ばないでしょ」
「だよね、あたしもそう思う」
ママがセダン派だって言ってたから多分ああいう車は選ばないと思う。この街に住んでたら使い勝手も悪いし。

「とりあえず家に帰ってみようかな」
「俺もついていく」
「もちろん俺もね」
いつもは家の中までは入ってこないけど、今日ばかりは仕方がないだろう。強盗とかだったら困るし。こんな分かりやすい強盗がいるとは考えにくいけど。

ガチャリ、と門を開いたその時だった。
「アイナ!!!!!!」
聞いた瞬間にゾワリと鳥肌が立った。懐かしい、声だ……

『アイナ、やっと見つけたわ!』
「ジュリア……」
そこに現れたのは、ジュリアだった。記憶よりも綺麗になった気がする。この間少しテレビで見たのよりも痩せているような。長いブロンドのウェーブヘアを靡かせながら近づいてきたジュリアは、そのままあたしを抱きしめた。
『アイナ……ほんとに良かった。ようやく会えたわ……』
「どうしてここに……」
きつく抱きしめてあたしの首筋に顔をうずめたジュリアから、グス…と鼻をすする音が聞こえた。ああ……とうとう本当にジュリアがここに来てしまった。あの、MOONにあった時から目をそらし続けていたことが、目の前にやってきたのだ。

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ジュリアの登場に放心していた龍毅と僚とともに、ジュリアもまとめて家の中に招いた。
家の前に停まっていた車からはジュリアの護衛らしい人が数人出てきたけれど、彼らは遠慮してもらう。適当に時間を潰してきてもらおう。

『ジュリア、久しぶりだね…』
『本当に。アイナ、痩せたみたいだわ、元気だったの?』
『大丈夫だよ。ジュリアは、モデルに復帰したんだよね』
『アイナを探すためよ』
『うん……』
『ああ、何から話せばいいのか分からないわ……あなたに会ったら言ってやろうと思ってたことはたくさんあるのに、言葉が出てこない』
『……』
『とにかく、無事で……本当に良かった。エドも喜ぶわ』
『うん……』
目に涙をためて見つめてくるジュリアの表情は、本当に穏やかだ。ジュリアの性格だったら、顔を合わせた瞬間に様々なことを問い詰められてもおかしくはない。なのに言葉が出てこない様子を見ると、あたしまで言葉に詰まった。
あたしだって……あたしだって、ジュリアに会いたかった。あたしのことを一番心配してくれる、ママよりもママみたいな存在だ。ジュリアはあたしのお姉ちゃんみたいなものだった。
『ジュリア……ごめんなさい…あたし、逃げて……』
『いいのよ!アイナが元気でいてくれたことが分かっただけで十分なの。会いたかったわ』
『あたしも、あたしも会いたかった……!』
ぽろぽろと一度こぼれた涙はもう止まらなかった。会いたかった。でも怖かった。きっと怒られるだろうって。きっともう愛想を尽かしてあたしのことなんか憎んでいるだろうと、心のどこかで思っていた。エドを、ジュリアを、みんなを置いて何も言わずに逃げたあたしのことなんか、二度と顔も見たくないだろうと……だけど違った、ジュリアは本当に喜んでくれた、探してくれて、こんな所にいるあたしを見つけてくれた。会いたかった。会えて、本当に良かった……。