放課後。約束通り理事長室にやってきた。

前は急にドアを開けたりしたらけいちゃんが女の先生を連れこんでたりしたから,あたしはちゃんとノックをするようになった。


コンコン


「どうぞー」


あ,あっちゃんの声かな?



「おー,来たね,座って座って~」


部屋にはやっぱりあっちゃんとけいちゃんがいて,ソファに座ると紅茶とクッキーが出てきた。


「わ,ありがとう」


あたしの好きなやつだ!このクッキーしっとりしてて大好き!




「まずはテスト,学年1位おめでとう。僚を抑えて1位になったのは藍那が初めてだぞ。よくやったな!」

「へ?1位だったの?12位って書いてあったよ?」

「そりゃ全国順位だ」



…?全国順位?



「うちのやつらはテストなんざ真面目に受けねえからな。非公開にしてるんだが,1年の末に受けてもらってるやつは全国学力テストなんだよ。順位表も正規のやつとはちょっと変えてるが,本体いるか?」

「…いや,いらないけど」



そうなんだ。あれ全国テストだったのかあ~
どうりで期末とかより難しめだったわけだよ。数学は初歩すぎてつまんなかったけど。


「藍那がそんなに勉強できるなんて知らなかったぞ!留学してたのになあ」

「まあね」

「あっちでちゃんと勉強してたんだな!えらいえらい!」



にっこり笑って褒められたけど,そんなに勉強をしてたわけじゃない。特に理科と社会なんかは全く知らないことばっかりだったからこっちに帰ってきてから結構勉強したし。

あたしの知識は偏ってるからなあ…大変だった。




しばらくテストについての愚痴なんかを聞いていると,話は龍毅たちのことになった。


「龍毅と舜な,あいつら鳳狼の中でも群を抜いて勉強しねえんだよ」

「あー,そうだろうね」

「僚が期末の前なんかは世話してただろうけど,それでも下から何番目かだからな…。そこでだ藍那」


ジッとけいちゃんに見られて何を言われるかが分かった。



「あいつらの勉強みてやt「やだ」

「はえーな!」



だってやだもん。


「な~頼むよ!俺の権限で卒業させてやることはできるけど,就職の面倒までは見切れねえんだよ!あんだけ成績わりーと就職先がなあ…」

「いっぱいあるでしょ。それこそ会社起こしたパパみたいな人だっているだろうし」

「風斗さんは最低限の勉強もできないやつを雇ってはくれない」


へえ。そうなんだ。


「うちの高校で学力底辺だなんて知ったら風斗さんは就職を打診した俺のことも怒るだろうよ…。風斗さんは絶対に怒らしちゃいけない」



パパってそんなに怖いの?怒られたことなんかないから分からないや…



「とにかく,あたしは勉強見てあげたりできないよ。日本で勉強してきたわけじゃないから龍毅たちが何をしてきたのかも全然わからないし,教えるのは向いてないの」


人に教えるのは難しい。それにあたしは勉強できない人の気持ちがあんまりわからないから…。教科書は丸暗記だし,英語はほぼネイティブだし,数学に関しては…まあ困ったことがない。


「だから他をあたるか諦めて?悠唏にでも頼んでみたら?」

「悠唏がやってくれると思うか…?」

「絶対やらないと思う」

「そうだよ…」



けいちゃんは意外と教育者として悩んでいたりもするようだ。

ちゃんと大人なんだなあ…こんなにちゃらんぽらんなのに。