「お前ひとりか?」

「…フン」


3階には倉本しかいなかった。本当に一人か?

「薬撒いたり,ずいぶん勝手なことしてくれたな」

「今更気づいたんだ?……気付かない方が悪いんだよ」


ツカツカと歩いていくと,椅子に座っていた倉本も立ち上がった。

体のバランスがおかしい。半身が不随気味だってのは本当だったのか。


「…俺は,テメエに負けるわけにはいかないんだよ,いけ好かない良い子ちゃんぶってるテメエらにはな」

「俺たちは汚ねえことやってるお前らを許さねえよ」


憎悪のこもった目で睨んでくるこいつをやはり潰す。

俺たちは俺たちがやりやすいように街を作りてえんだ。

それは紫蛇も同じ。方向性が違うだけだ。



「……」

「……」


俺たちの間にピリピリとした空気が流れ,俺が拳を振り上げるとともに倉本も動いた。








ドスッ,バキ,と鈍い音が響く。

前のように冷静さを失っているわけではなく,俺はとても冷静に倉本の動きを見ていた。


「ッ…,」

やはりコイツの動きは鈍い。こんなんじゃ無かったはずだ。


「…半身,動かねえのか」

「ウッセェな!!クソが!」


俺がやった去年のあれのせいだろう。

だがあれを,悪いとは思わない。藍那に手を出したこいつが悪い。


冷ややかに倉本を見ていると,懐に手を突っ込んでいるのに気付いた。