寺川主任の言葉に宮園先輩だけでなく、庶務課社員どころか総務部全体が一度静まり返った。
「は?」
きっとあまりのことに、そんな声しか出せなかっただろう先輩に寺川主任が私の左手を持って言った。
「ほら、金山さんマリッジとエンゲージ付けてるでしょう?」
私の左手には確かにもらったエンゲージとマリッジのリングが重ね付けされている。
「たしかに、金山さんが結婚したのかもしれないけど。相手が泉さんとは……」
自分で見たと言って乗り込んできた割には、出てきた事実は認めたくないのか宮園さんは歯切れ悪く言葉を濁す。
「ま、宮園さんが信じないならそれいいんじゃない。でも、結婚した男の人に手を出すのは良くないから考えた方がいいかもね」
そんな言葉をサラッと言って主任はこの場を終わらせるべく口を開いた。
「ま、真実が知りたきゃ後ろの彼に聞いたらいいわ」
そう、宮園さんの後ろには実にいい笑顔の悠斗さんが立っていたのだった。
多分一緒にお昼を食べに来たんだろうなと思いつつ、私は少し事の成り行きを見守ることにした。
「宮園さん。僕の奥さんに難癖つけないでくださいね?梨乃はやっと手に入れた大事な奥さんなので」
ニッコリと告げた言葉とその左手にお揃いのマリッジリングを見て、宮園さんはガックリと肩を落とした。
「梨乃、お昼これからでしょう?一緒に行こう」
さっきまで目が笑ってない悠斗さんだったが、今はいつのも私に甘い悠斗さんだ。
振り返れば、寺川主任が小さくピースしている。



