「不利益とか意味がわからないけど。」

「だって・・・。」

そう言い掛けて言葉を飲み込んだ。

だめだ。

私の嫉妬心が、ショウヘイを傷付けて、そして自分に返ってくるってことはこれまでの経験上わかってた。

これ以上、今は踏み込んじゃいけないってことも。

だけど、このままこうしてショウヘイと二人きりでいることにも堪えられない。

自分の中にわき起こったネガティブ要素が、取り払われるまでは。

「あなたは晩御飯は食べてきたの?」

「ああ、ごめん。断ったんだけど部長に無理矢理連れていかれて。君は?」

「まだよ。こないだ作った自分の茶碗をもらってすぐに帰ってきたから。」

ショウヘイは私から視線を外してうつむいた。

ショウヘイもまた言葉を探してるような気がした。

この気まずい空気。

払拭できるほどの気力がない。お腹も減ってるし。

「今日は、私泊まらなくてもいいかな。久しぶりに実家に帰ろうかと思って。」

ショウヘイの顔が再び上がる。

「え?」って顔で私を見つめていた。

だよね。

だって、そんな予定昨晩までは全くなかったもん。

一生ここに二人でいたいとさえ思ってた私が翌日に実家に帰るって。

自分で言ってて無茶苦茶だと思った。

「今日は一人でできる?」

そう言いながら鞄ににぎりしめていた茶碗をしまった。

「うん。大丈夫。」

「ん、じゃ、お腹も空いたし帰るね。」

「もう?」

「うん。」

立ち上がる私の腕をショウヘイは掴んできた。

「ごめん。」

そう言ってその手を外す。

ショウヘイもそれ以上何も言わなかったし、何もしなかった。


本当は、「帰るなよ」って言ってほしかった。

もう一度ぎゅって抱きしめてほしかった。

そんなこと、言えるはずもない。

ショウヘイの視線を感じながら、玄関の扉を閉めて鍵をかけた。

ガチャン。

妙に大きな音で響いた。