美奈さんたちが帰ったあと、私は食べ終わった後の食器をサイコキネシスで持ち上げました。薄い皿たちがふわふわと浮かんでは重なっていきます。そのまま裏に戻ろうとしていると、桜子先輩が見咎めてきました。

「これ! 横着するでない、よだか!」

「いいじゃないですか、これぐらい。こっちの方が早いんですもん」

 わざわざ手で運ぶだなんて重くて汚れてめんどくさいです。この方が100倍効率的じゃないですか。

 ぶつぶついいながらピンと立てた人差し指の上でくるくると皿を回してみせます。ほら、こんなこともできるぐらい私は器用なんですよ!

 と、その時、私は自分の足を踏んで、派手に転んでしまいました。

 ひゅーん。がっしゃーん。

 派手な音を立てて、食器は飛んでいき、椿屋先輩のすぐ隣の壁へと激突して粉々に割れてしまいました。

「だから言うたであろうが! このコンコンチキ!」

 怒り狂った桜子先輩が近づいてきます。私はばっと起き上がると、ふわふわ浮いて逃亡を開始しました。しかし、その前に立ちふさがったのは椿屋先輩です。

「これで、何枚目?」

 氷点下の声色で問われ、私は一気に青ざめました。

「す、すみません……」

 ぺこぺこと椿屋先輩に頭を下げる私を見て、桜子先輩は鼻を鳴らしました。

「良い機会じゃ。たっぷりお灸をすえてもらうがいい」

「さ、桜子先輩ぃ……」

 助けを求めるも、桜子先輩が助けてくれる様子はありません。私は大人しく言葉少なに叱ってくる椿屋先輩のお説教を受けることになったのです。

「――それで?」

 こってり絞られている私をよそに、桜子先輩は入口のドアを開けて鋭く言いました。

「そこに隠れているのは分かっているぞ!」

 しかし返答はありません。ただ、庭の草花が揺れるばかりです。桜子先輩は腕を軽く持ち上げ、手の平を上に向けました。

「出てこぬのなら、狐火であぶり出してやろうか」

 桜子先輩の手の平の中で火の玉がぐるぐると回り始めます。それを見て焦ったのでしょう。がさがさっと音がしたかと思えば、庭木の陰から小さな人影が飛び出してきました。

「ひええ、すみませんすみません! それだけは勘弁してください!」

 そこから転がり出てきたのは、最初は人間の子供かと思いました。しかし、顔にかぶっていたほっかむりを取ってみるとその下から出てきたのは、頭頂部に乗った皿に、くちばしのような形をした口。

「……河童?」

 叱られているのも忘れて、ぼんやりと私は呟きます。でも椿屋先輩もお説教を止めて、そちらを見ているようなのでおあいこです。

「ここ、化物堂ですよね? 色んなことを解決してくれるっていう」

「まあ、そういう一面もあるな。して、何用じゃ貴様?」

 刺々しく桜子先輩が尋ねます。すると、河童さんは勢いよく床に座り込むと、私たちに向かって土下座しました。

「俺、どうしても結婚したい相手がいるんです! どうか手伝ってください!」

 河童さんのその言葉に、私たちは顔を見合わせました。

 そう、ここは『レストラン化物堂』。人と化物の間を取り持つお店なのです。