「よく来たな、猫又ども!」

「遅いもんだから尻尾を巻いて逃げたかと思ったぜ!」

「文字通りな!」

 ぎゃはははは! と火車さんたちは下品に笑います。桜子先輩は眉間のしわを深くして、狐火を浮かべ始めました。

「だ、駄目ですって、桜子先輩! この場所じゃ化田さんに当たっちゃいます!」

 そう、姑息にも火車さんたちは化田さんを盾に使っているのです。火車さんたちの車にくくりつけているのです。

「約束通り来てやったぞ! 化田の兄貴を離しやがれ!」

「ハッ! 俺たちに勝てたら離してやるよ!」

 そう言うと火車さんたちは車を回して、田んぼ道の方にハンドルを向けました。挑発に乗った猫又さんたちもそれに続きます。桜子先輩は猫又さんたちのリーダーへと叫びました。

「わしも行くぞ! 車を貸せ!」

「え、ええ!?」

 困惑する猫又から、桜子先輩は三輪車を取り上げようとします。リーダーさんは慌てて桜子先輩の手を引っ張りました。

「あねさん! どうかこちらのリヤカーの荷台にお乗りください! 俺たちが走りますんで!!」

 猫又たちの必死の主張に、桜子先輩は渋々といった様子で折れました。まず桜子先輩が荷台に乗り、続いて私もその隣に乗り込みます。

「……落としたらゆるさぬぞ」

「はい、安全運転いたします!」

 何故か運転手の帽子をかぶった猫又が荷台の前に座り、そのさらに前に四つ足の猫たちが三匹、綱で繋がりました。どうやらその三匹がこのリヤカーを引くらしいのです。

 猫又チームは五台の三輪車と一台のリヤカー。対する火車チームは三台の牛車のような車です。

 これで2チームの車両が出そろいました。エンジンが吹かされ、ブオンブオンと音が鳴ります。

「ん? エンジンですと?」

 この2チームのどこにもエンジンなんて使われていないはずですが。どうやって鳴っているのでしょうか。辺りを見回してみると、どうやら猫さんたちは口でブオンブオンと言っているらしいのです。なんというか雰囲気づくりに余念がないというか。

 それはともかく、場の熱気は最高潮に高まりつつありました。

 さあ、レースの始まりです!