「コースはいつもの場所だ! スタートで待ってるぞ、ふはははは!」

「待て! 化田を返さぬか! 降りてこい卑怯者―!!」

 高笑いとともに去っていった火車さんたちを私たちは見送ることしかできませんでした。ただ一人、桜子先輩だけは走ってそれを追いかけようとしましたが、すぐに見失って私たちのところに戻ってきました。

「おい、猫!」

「は、はいぃ!」

「そのスタートというのはどこなんじゃ!」

「田んぼ道の入口です! そこにスタートにちょうどいい広場があるんです!」

「ならばすぐにそこに案内せんかー!」

「はいっ! よろこんでっ! おいてめえら車をまわせ!」

 へい、と周りの猫たちが頭を下げ、四足歩行でいずこかへと駆けていきます。四本足の方が速いのならどうして二足歩行しようとするのでしょう。猫又の美学なんですかね?

 徒歩でその場所に向かいながら、私はリーダー格の猫又さんに尋ねました。

「いつものって言っていましたが、どういうルートなんです?」

「ああ、それですか。なんてことはない、暴走族のコースのことですよ」

 猫又さんは前足を伸ばして前方を指しました。

「あっちに田んぼがあるでしょう? その田んぼ道を突っ切って山道を一往復、その後また田んぼに戻ってきて住宅街の入口でゴール。という道順なんです」

「なるほど、田舎だからこそできる暴走ルートですね」

「本当は首都高とか攻めたいんですけどねえ」

 あ、猫又にもそういう憧れとかあるんですね。

 そうして歩いていくと、先程車を取りに駆けていった猫さんたちが戻ってきました。

「兄貴―! 車取ってきやしたよー!」

 振り返ってみるとそこには、リヤカーを引いた猫又さんと、三輪車に乗った猫又さんたちが勢揃いしていました。

「リヤカー!? 三輪車!?」

「俺たちの車と言ったらこれですよ? 猫だからバイクには足が届かなくて……」

「ああ、なるほど」

 思わず猫又さんの足元を見ます。伸びれば長い足なんでしょうが、体重を支えるには難しそうですね。

 そうこうしているうちに、私たちは件の広場へと辿りつきました。

 広場とは言ってもただの空き地です。元々は廃工場だったらしく、木材や鉄パイプがいたるところに散乱しています。

 その只中に、火車さんたちは陣取って私たちを待っていました。