「俺たちは猫又暴走族『津無漢(ツナ缶)』っていいます」

 しゃがみこんだ化田さんの前に、猫又たちは勢揃いして語り始めました。

「ここいらが俺たちの縄張りだったんですが、最近、火車の野郎どもが幅を利かせてて……」

 聞き慣れない言葉に私は首を傾げます。

「……火車?」

「火車というのは死んだ人間の魂を回収する妖怪のことじゃ。猫の姿をしているとも言われておるのう」

 すかさず桜子先輩が説明をしてくれました。流石、桜子先輩は物知りですね。そうしている間にも化田さんは猫又さんたちの話を聞いているようでした。

「うんうん、それは大変だったねえ」

 何を言われても優しく同意する化田さんに、猫又さんたちはどんどん話をしているようでした。しかし、猫又さんたちの話が落ち着いた頃になって化田さんは言いました。

「でもねえ、戦って解決するんじゃなくて、話し合って解決するのも手なんじゃないかなあって俺は思うんだあ」

 間延びした声でそう言われ、猫又さんたちは逆上します。

「そ、そんなことできるわけねえだろ! 俺たちにだって意地があるんだ!」

「でもそれで怪我したり迷惑かけたりしたら駄目なんじゃないかなあ」

 その途端、猫又さんたちは雷に打たれたような顔をして、顔を見合わせてからべそべそ泣き始めました。

「ど、どうしたのお?」

 おろおろと困惑する化田さんに猫又さんたちは泣きむせびながら答えます。

「昔、似たようなことを言われたことがあるんです……」

「俺たち、意地にこだわって大切なことを忘れてたかもしれねえ……」

 おやおや。もしかしたらこの猫又さんたち、根はいい子なのかもしれません。しゃくり上げる猫又さんたちに化田さんは優しく声をかけました。

「俺も一緒に火車さんと話してみるから、それで縄張りを話し合おう? ね?」

「化田さん……いや、化田の兄貴……!」

 猫又さんたちは化田さんのことを尊敬のまなざしで見上げました。分かります、その気持ち。化田さんは仏のような方ですもんね。しかしその時、桜子先輩からの厳しい叱責の声が飛びました。

「化田!!」

 びくっと猫又さんたちは肩を震わせます。先ほどの恐怖がまだ残っているのでしょう。一方、化田さんはひるむことなく、あくまでマイペースに桜子先輩の方を振り返りました。

「貴様という奴はどこまでお人好しなのじゃ! こんなゴロツキどもに協力してやる義理がどこにある!」

「そんなこといわないでよお。ほら、袖振りあうも多生の縁って言うでしょ?」

「貴様は袖を振れあいすぎなのじゃ!」

 ぎゃあぎゃあと二人は言い合います。失礼、桜子先輩が一方的にぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるのを化田さんが宥め続けています。

 その時、ふと頭上を見上げた私は、彼方の空から何か炎のようなものが近づいてくるのを見つけました。

「桜子先輩、桜子先輩」

「なんじゃ、今忙しいのじゃ! 後にせい!」

「あれ、何でしょう?」

 指さした先の炎はどんどん近づいてきていました。そうして、雷のようなゴロゴロという音がした後、ニャーン! と猫の鳴き声が聞こえて、炎は私たちの目の前に止まったのです。

「見つけたぞ『津無漢』め」

「て、てめえらは火車暴走族『火車髑髏(かしゃどくろ)』!」

 炎だと思っていたのは、燃え盛る炎の車を引いたたくさんの猫たちでした。猫たち自身も、足の先や耳の先がめらめらと燃えているような気がします。なるほど、これが火車というやつですか。

「今日という今日は決着をつけようじゃねえか」

 車の上に乗った偉そうな猫がそう言い放つと、猫又さんたちは顔を見合わせてから、言いました。

「待て、その前に話し合おう。話し合いで縄張りを決められるならそれに越したことはねえだろ?」

「ああん?」

 火車の親分さんが凄みます。猫又さんたちが怯みます。

「てめえ、『津無漢』! いつからそんな腰抜けになりやがった!」

「うるせえ! 俺たちは昔、尊敬する兄貴に教えられたんだ! カタギに迷惑をかけるな、殺しをするな、俺たちのような暴走族はよわっちい奴らなんだってな!」

「なんだと!? 馬鹿にしてんのかテメエ!」

 火車の親分さんは叫びながら、周りの火車さんに合図を送ります。すると、火車さんたちは、なんと化田さんに纏わりついて、化田さんを空中に連れ去ってしまったのです。

「ああー」

 情けない声を上げて、化田さんは遠ざかっていきます。

「化田!」

「化田さん!」

「化田の兄貴!」

 これでは桜子先輩の狐火も届きません。私が飛翔して捕まえようとするも、ひらりとかわされて威嚇されてしまいました。

「人質を取られりゃ、てめえらも戦わずにはいられねえだろ」

「卑怯だぞ、『火車髑髏』!!」

 火車の親分さんは、猫又さんたちに向かって笑いました。

「猫又ども! こいつを返してほしくば俺たちと勝負するんだな!」