翌日、日も傾きかけた頃、桜子先輩は駅前に立っていました。その服はいつものセーラー服ではなく、ネイビーに花柄のついたワンピースと麦わら帽子という姿です。

 しかし待ち合わせが夕方だというのなら服屋さんに買いに行ってもよかったですね。桜子先輩の変化でなんとかなったからまあいいのですが。

「あ、桜子ちゃん」

 そわそわと落ち着かない様子で辺りを見回していた桜子先輩に声をかけてきたのは、いつも通りの服装をした化田さんでした。ちなみに私は二人のすぐ近くにある柱の陰で動向を見守っています。

 え、仕事? 店長と椿屋先輩には話をつけてあるので大丈夫です。公的なサボタージュです。えっへへ。

「ば、化田……」

 振り返った桜子先輩は、化田さんの姿を見ると、自分の服装を隠すように少しもじもじした後、意を決したのか、腰に手を当ててふんぞり返りました。

「来てやったぞ、感謝せい!」

 桜子先輩の言葉は上から目線でしたが、化田さんは気を悪くする様子もありませんでした。

「うん、ありがとうー」

 ただ、にっこりと笑って素直にお礼を言うものですから、桜子先輩は顔を真っ赤にしました。あれはずるいです。反則です。

 二言三言会話をした後、二人は連れ立って歩き始めました。二人の距離は近くもなく遠くもない微妙な距離です。見ているこちらがもどかしくなってしまいます。

 あっ、桜子先輩が化田さんに近付きました。これは手を握ろうとしていますね。私は思わずガッツポーズをしました。

 しかし、化田さんはそんな桜子先輩の様子には全く気付かず、歩いていっています。私は持ち上げかけた拳を下ろして落胆しました。もう、そんなことじゃ桜子先輩に愛想を尽かされちゃいますよ、化田さん。

 そうして二人がやってきたのは駅から少し離れた寂しい細道でした。不安そうに辺りを見回す桜子先輩に対して、化田さんは慣れた様子で道を進んでいきます。

 私もその後ろを恐々とついていったのですが、やがて二人が辿りついたのは、一軒のラーメンの屋台でした。

「ラーメン屋……?」

「うん、ラーメン屋さんだよお」

 デートにラーメン屋さんですか。なんというかアレなチョイスですね、化田さん。しかし、化田さんはどうにもおかしなことを言いだすのでした。

「僕、どうしてもあのラーメン屋さんを繁盛させたいんだあ」

「繁盛、じゃと?」

 どういうことでしょう。化田さんの意図が掴めません。でも、もしかしてまさかこれは――

「こんな寂れたところにあるラーメン屋さんを繁盛させるには普通の方法じゃ難しいでしょ? 普通のそれで化けるのが上手な桜子ちゃんならなんとかしてくれると思って。――あれ? 桜子ちゃん、どうしたの?」

 俯いて震えだした桜子先輩を、きょとんとした顔で化田さんは見つめました。ああ、これはまずいです。最悪の展開です。

 桜子先輩は地を這うような声で言いました。

「……つまり」

「うん」

「これは、デートじゃ、ない?」

「うん?」

 桜子先輩の手からバッグがぱさりと落ち、元の葉っぱへと戻りました。