「桜子先輩って本当に化田さんのこと好きですよねー」

 裏に引っ込んでしまった桜子先輩を覗きこんでそう言うと、桜子先輩は顔を真っ赤にして否定してきました。

「はぁ? そそ、そんなわけなかろうに!」

 ああもう、分かりやすいなあ。こういう時、この方が先輩だということを忘れて頭を撫でてしまいたくなります。

「よだか。今、無礼なことを考えなんだか?」

「考えてませんよー。気のせいですって!」

 胡乱な目を向けてくる桜子先輩から逃げるように表のホールへと向かいます。視界の端では化田さんがゆっくりゆっくりとアイスココアを飲んでいるところでした。

 きっと両想いなんだから早くくっつけばいいのになあ。軽くため息をつくと、私は注文を取る仕事に戻るのでした。

 しばらく経って、ココアを飲み終わった化田さんはレジへと向かっていきました。私はさりげなく桜子先輩をレジへと誘導しようとします。

「桜子先輩、レジにお客様がいらっしゃっていますよ」

「ああ、今行く――化田ではないか!」

 桜子先輩は一度向かおうとした足を止めて、裏に引っ込もうとしてしまいます。私はそんな桜子先輩の前に立ちふさがりました。

「駄目ですよー。業務放棄なんて、いつもなら桜子先輩が嫌うものじゃないですかー」

「む、ぐぐぐ」

「桜子ちゃあん」

「ほらほら、化田さんがお呼びですよ!」

 桜子先輩は頬を膨らませて何か言いたげな顔で私のことを見上げてきていましたが、やがて諦めたのかとぼとぼとレジの方へと向かっていきました。

 にこにこと笑う化田さんと真っ赤になりながらもムスッとした表情の桜子先輩が向かい合います。桜子先輩、ファイトです!

 二人はお会計をしながら、何かを話しているようでした。

 いつも通り、おっとりおっとりと話す化田さんに桜子先輩がつっかかっているようです。しかし、何か衝撃的なことを言われたのか、桜子先輩の動きがぴたりと止まりました。化田さんはマイペースにも手を振ってそのまま店を出ていってしまいます。桜子先輩は足元がおぼつかない様子でふらふらとこちらに戻ってきました。

「な、何があったんですか、桜子先輩」

 心配して声をかけると、俯いていた桜子先輩は、途方に暮れた顔でこちらを見上げてきました。

「デ」

「で?」

「デートに誘われてしもうた……」