真夜中。外灯はぽつりぽつりとしかなく、少し町を外れれば延々と田んぼ道の続く田舎町。商店の光も落ち、月と星だけが青年の影を作っている。改造バイクを路肩に止めて、青年は小さな缶をカコッと開けた。

 青年の悪い仲間たちは既に帰途についている。門限なんてものは青年たちには存在しないが、明け方まで走ると早朝に起きて仕事をする農家の皆様に対して流石に迷惑すぎるということを知っているのだ。

 傾きかけた月を背に、集まってきた小さな客人たちに青年は語りかける。

「いいかチビたち。俺たち暴走族は道から外れたアウトローだ」

 小さな客人たちは皿の中のえさに口をつけるのを止め、青年を見上げてきた。その様子はまるでこちらの言葉に耳を傾けているように見えて、青年は話を続けた。

「だが、アウトローにもな、超えちゃならねえラインってものが存在するんだ」

 青年は空を見上げた。夜空は嫌味なほど澄み渡っていて、普段は見えないような小さな星々すらも今日ばかりは輝いて見えた。

「まずカタギの奴に迷惑をかけちゃいけねえ。俺たちは存在するだけで迷惑だからな。せめてそれ以上迷惑をかけるべきじゃないのさ」

 息をほうと吐く。青年の息は真っ白になって、空へと上っていく。小さな客人たちは鼻についたままのえさをぺろりと舐め取った。

「それから、人殺しもいけねえ。どんなにムカつく相手でもな、親に貰った命だぜ? 大切にしなきゃいけないに決まってんだろ」

 青年は自分の手を見下ろし、ぎゅっと拳を握ってみせた。もう大人と変わらないほど大きくなった手のはずなのに、何故だか今はとても小さなものに見えた。

「ホントはな、こうして暴走すること自体、悪いことだって知ってるんだ。だけどどうしても止められねえ。……俺たちはマトモな奴らよりずっとよわっちいのさ」

 思わずこぼれた本音は、冬の夜空に寂しく響いた。いつの間にか足元にたくさん集まってきていた小さな客人たちは、青年を見上げてみゃおうと鳴いた。

「――だなんて猫に言っても分からねえよな」