王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

「エレン、私……」


 サファイアの瞳から、心に勇気をもらったようにエレンへ向き直る。


「今はまだ、誰かの元へは嫁ぎたくはないわ」

「は……」


 マリーが突然口にしたことに、エレンは一瞬呆気にとられたように固まってしまった。

 だがすぐにはっとして、マリーの手を強く握り直すと声を大きくした。


「お、お嬢様っ!? 一体何を……!?」


 エレンの驚く声に、マリーは自分を見つめる彼女の目をしっかりと見据えた。


「女として、フレイザー様に見初められたことはとても光栄なことだと思うわ。
 けれど、他にもフレイザー様の妻になりたいと思っている女性はたくさんいらしたの。その方たちの中には、私なんかよりももっとふさわしい方がいらっしゃるんじゃないかしら」


 社交界へ出向く前にウィルが教えてくれた。

 世の人々がどんな顔でどんな思いを持ってそこに集っているのか。

 それをマリーはちゃんと見てきたのだ。