王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

「見初められたのですよ、フレイザー様に!」

「え……?」


 思っていたことと真逆の答えは、にわかには理解しえない。

 きっとあの日の自分は、いい印象を持たれるような態度ではなかったはずなのに。


「正確には、おそらく数名の女性のうちのおひとりです。見初められた女性とひとりひとり面会をして花嫁候補を絞られるのです」


 花、嫁……


 マリーはエレンの言葉を聞くと、ずしりと胸が重くなるのを感じた。

 これまでマリーは、“花嫁”になるべくして必要最低限の教育だけを受けてきた。

 文字の読み書きや裁縫。淑女としてのマナーやダンス。

 後継者を産むための健康な身体づくりのために、よく食べよく眠ること。

 毎日何の疑問も持たず、『アンダーソン家の花嫁』となるために生きてきたのだ。

 そして、まさに今それが現実のものとなろうとしている。