王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

 恥ずかしさを誤魔化したくて言い訳を見繕おうとする。

 けれど、それは叶わぬままマリーはエレンに腕を掴まれ強く引き寄せられた。

 ウィルから引き離し自分の方へ向き直らせると、エレンは険しかった表情を一変させた。


「お嬢様、これからフレイザー様がこちらにいらっしゃるそうです!」


 マリーの小さな手を両手で包み込んだエレン。

 さっきの形相を見るに、きっと叱られてしまうんだろうと思っていたのに、間近から見つめてくる茶色の瞳は、爛々と煌めいていた。


「フレイザー、様……?」


 思いもしなかった人の名前が出てきて、マリーは首を傾げる。


「はい! フレイザー・アンダーソン様です。
 さきほど速達にてお手紙が届きました。マリーアンジュ様に、ぜひとも個人的にお会いしたいと!
 旦那様も奥様も、すぐにお帰りになられます!」

「フレイザー様が、どうしてこちらに?」


 何かお叱りを受けるようなことでもしでかしてしまったのか。

 先日の社交界でのことを巡れば、嫌悪の感情がフレイザーに伝わってしまっていたのかと青くなる。

 それにしては、エレンはいつになく頬を上気させているようだ。