王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

「あのね、ウィル。私あのあと、フレイザー様と、踊ったの……」

 言い難く口の中で呟くと、ウィルは怒るでもなく「そう」とだけ静かな相づちをくれる。


「主催者側だったし、マリーのご両親もそれを望んでいらしたんだろう?」


 こくりと頷くと、ウィルはぽんぽんと優しくマリーの頭を撫でてくれた。


「健気な子だね。言いつけをきちんと守ろうとして」


 掬われたままだった手が、ぐっと引き寄せられる。

 ダンスの時よりもずっと強くマリーを抱きしめるウィルは、彼女を腕の中に閉じ込めて小さな耳に吹きかけるように囁いた。


「でも、やっぱり妬けるな」


 精一杯気持ちを抑えているとわかるウィルの言葉に、マリーの胸は激しく鼓動する。


「ウィル……」


 だけど、なぜだかほっとしている自分がいることにも気がついた。

 フレイザーと同じように囁かれているのに、ちっとも不快ではない。

 あの夜も、ウィルが現れてくれなければ、惨めさと不甲斐なさに押し潰されあの場から逃げてしまっていたかもしれなかった。