王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

「あれから、誰かと踊った？」


　たった今、嫉妬のようなことを見せられたばかりだ。


　フレイザー様と踊ったことを話したら、気分を悪くしてしまうかしら……


　ウィルがいなくなったあと、マリーは母とともにフレイザーの元へと向かった。

　たくさんの女性に囲まれる彼の前に、母はマリーの背中を押して足を進めさせた。

　どんな話をすればいいのかわからず、加えてフレイザー公に気に入られようと集まった女性達の冷たい視線がマリーを貫き、怖気づくばかりだった。


　『マリーアンジュ嬢』と呼んだフレイザーに不意に手を取られ、拒む間もなく女性達の間をすり抜けダンスフロアへといざなわれた。

　疎ましげに口唇を噛み締める女性達の視線は刺さるように痛く、助けを求めて振り返った母は満足げに笑っていて、マリーは落胆した。

　先に踊ったウィルとは違い、フレイザーはリードするというより、強引な手引きでマリーを振り回しているような感じがした。