王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

 途端に、どきんと弾き飛ばされる鼓動。

 庭に足を踏み入れ、自分を見つめてくるサファイアの瞳から泳ぐ目を逸らしてしまった。


「レディ、先日はお相手いただき、感謝の至りでございます」


 丁寧な挨拶に、マリーはおずおずと目線だけをウィルへと向ける。

 格好こそ違うものの、あの夜と同じように胸に手を当てるウィルの姿に、マリーはときめきを隠せなかった。


「ウィル、どうして……」


 聞きたいことはあれこれあるのに、胸のときめきにつっかえて上手く言葉にできない。

 それでもウィルは変わらず優しく微笑み、マリーの華奢な手をそっと拾った。


「公の場で、一番最初に君と踊るのは、俺でありたかった」


 持ち上げられたマリーの手に、ウィルは瞼を伏せて口づける。

 手の甲に触れた柔らかさは、口唇にそうされたときの感触を思い起こさせ、マリーの心臓は弾ける。

 欲しかった答えよりもウィルがくれる回答は想像を超えるもので、恥ずかしさのあまりうつむいてしまった。