王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

*


 初めての社交界を終えてから、またウィルとのいつもの密やかな時間を迎える。

 マリーは、いつも以上に高鳴る鼓動を感じながら裏庭へと足を運んだ。

 もしかしたら、あの夜のことは夢だったのかもしれないと思っていた。


 でも、お母様も私と踊る彼の姿を見たはずで……


 なのに、あれが夢のように思えるのは、彼がいつもと違う風貌だったからだ。

 あのときの彼のきらびやかさといつにも増して素敵な紳士であったことを思い出し、マリーの胸はきゅんと高鳴る。

 
 騎士を志す方でも、社交界に赴くことがあるのかしら……


 どうして彼が自分を救うようにあの場に現れたのか。

 あのときは聞けなかったことを彼にたしかめようと思いながら、風に靡く髪を押さえマリーは裏庭の隅に辿り着く。

 かさりと音がしたかと思うと、いつも通りの騎士然としたウィルが、生け垣の間から顔を覗かせてきた。