王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

「見ない顔だったわ。いったいどういう階級の方だったの? まあどちらにしても、大公爵家でないことは明らかよね。
 マリー、フレイザー様とはお話したの? 私はフレイザー様とお近づきになってほしいとお願いしたはずよ? どこのどんな身分の方なのかもわからない男性と踊るなんて、お母様を悲しませないでちょうだい」

「はい、すみません……」


 呟きを足元に落とし、マリーは姿を消してしまったウィルがいた場所を、惜しむようにもう一度こっそり振り返った。



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