王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

「……マリー、この前は驚かせてしまって、すまなかった」


 身体を密着させているからこそ耳に届くウィルの囁き声。

 音楽の満ちた会場では、周囲の人達に彼の声は届いていないだろう。


「ううん、私こそ……逃げてしまって、ごめんなさい」

「驚かせてしまったのは、俺のせいだ。君が謝ることはないよ。でも……」


 ダンスの振りを装って、マリーの身体をぐっと抱き寄せたウィルは、彼女の耳に口唇を寄せた。


「あのとき告げた気持ちは本物だから。
 君が他の誰かと踊るところを想像して、嫉妬を抑えられなくなってしまったんだ。
 ……君を、誰にも渡したくなかった」


 耳から吹き込まれた甘い想いの丈に、心臓が大きな音で弾ける。

 身体が熱いのは、ダンスを踊っているからというより、ウィルの体温と想いが直に伝わってくるからだ。


「本当なら、今すぐにでも、君をここから連れ出したい」


 すっと顔を離したウィルは、サファイアの瞳にマリーへの想いを滲ませていた。