ほう、と火照った溜め息を吐くマリー。

 これまでにも、ウィルが教えてくれたたくさんの知らない世界。

 そのどれよりも一番に胸の躍る出来事を、昨夜その大きな瞳で見ることができた。

 その様子を高い位置から穏やかに見下ろすウィルは、黒の前髪の裾野で青い瞳を優しく瞬かせた。


 自然豊かな森に囲まれた小さな国バークレー国。

 豊かな水源を活かした農業は盛んで、他国への農作物の輸出が経済の源となっている。

 飛躍的な繁栄こそないものの、友好的な国風のおかけで、廃れることなく平和で温厚な風土を守っている。

 そんな小さな国の片隅に、緑の生垣の中に隠れるようにひっそりと佇むイベール伯爵家。

 その一人娘がマリーアンジュだ。