王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う

「……っ、ウィ――……」


 咄嗟に口にしようとした名前は、彼の長い指に優しく押さえられる。

 そっと口唇に触れてきた手袋越しの温かさに、胸がきゅんと疼いた。

 片目を瞑るウィルは、悪戯でもしているように楽しげにくすりと笑いを零す。

 それ以上は言わないでという彼の意図が伝わってきて、マリーは口をつぐんだ。


 ウィルが、どうしてここに……?


 彼の指の温かさに、心までも温めてもらっているよう。

 いや、彼の存在がマリーを安心させたのだ。

 そして、先日のことを思い出したマリーは、恥ずかしさも相まって熱く頬を染める。

 けれど、すぐに離れてしまう彼の温かさにわずかに淋しさが掠めた。

 
「お初にお目にかかります。私はウィリアム。レディ、ぜひお相手を」


 片方の足を半歩引き、真っ白のスカーフタイの提がる胸元に掌を添えると、ウィルは丁寧に頭を下げた。