それに、身内以外の人とはどうやって話をすればいいのか、マリーはわからずにいた。

 家庭教師はマナーや言葉遣いを教えてくれても、人との話し方など教えてはくれなかったのだ。

 そのときふと心の中で存在感を強くしてきたのは、彼の姿だ。


 ……ウィルは、私に勉強以外のことをたくさん教えてくれた。

 いつだってやさしい微笑みで接してくれる彼となら、楽しく自由に話せるのに……。


 先週は顔を合わせられなかった彼の笑顔を思い出す。

 彼からの突然の行動に驚き、逃げてしまったことを謝りたいと思った。

 そして、煌びやかな世界でたったひとりで立っていることがとても寂しく、哀しくなってきた。

 ――壁の花。

 それが女性にとってはとても恥ずかしいことなのだと、母は言っていた。

 言いつけられた相手どころか、至るところで自分の伴侶を探しているたくさんの貴族の男性にも、うつ向いたままでは声を掛けてもらえるはずもない。

 誰にも相手にされないマリーは、壁際に立っているだけのみっともない飾られた人形だ。