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 目の前で、煌びやかな色とりどりのドレスがくるくると翻っている。

 たくさんの貴婦人達が音楽に合わせて踊っているダンスフロアを、ぼんやりと眺める。

 父は他の紳士たちとの会話に励み、母はサロンの仲間の元へ行ってしまって、マリーは置き去りだ。


 フレイザー様に誘っていただけるように、って言われたけれど……


 盛り上がるダンスフロアを避けて静々と下がり、壁際でひとりひっそりと気配を殺すようにたたずむ。

 両親から盛大な期待を背負わされたものの、マリーはついぞフレイザーに自ら話しかけることはできなかった。

 最初こそフレイザーの方から声を掛けてくれたものの、マリーは上手く答えられず、他の令嬢達に押し退けられるようにして彼から距離を取った。

 擦り寄る女性を代わる代わる抱き寄せては、口づけでもしてしまいそうな距離で話をしていたフレイザー。

 彼に対して湧き上がる嫌悪感が、なおさら前へ出ることを躊躇わせていた。