「大丈夫ですよ、夫人。今日が初めての社交界だと聞いております。令嬢が緊張してしまうのもわかりますので」

「不躾な娘で申し訳ございません、フレイザー様」


 マリーに代わり謝罪した父に、フレイザーは嫌な顔をすることなく暗黒の瞳を細めるだけだ。


「しかし、話に聞いていたとおり、本当に美しい方だ。さすが夫人の血筋を濃く引いていらっしゃるらしい」

「まあ、お上手ですわ。
 ですが、手塩にかけて育てた自慢の娘ですの。きっとフレイザー様もお気に召していただけると思いますわ」

「何かと世間知らずなこの子に、どうかフレイザー様の手ほどきで立派な淑女にしていただきたいと存じます」


 父の言う手ほどきがなんのことなのかマリーにはわからなかった。

 けれど、暗い瞳で微笑むフレイザーの表情から、感情を感じ取れなかったマリーは、彼に何かを教わることは気が進まないと思った。

 
 いろいろと教わるのなら、ウィルからがいいわ……


 博識なウィルのわくわくするような話ぶりを思い出しながら、何を答えればいいのかわからずただうつむいてしまうばかりだった。



.